無痛分娩って実際どうなの?

ここ数年でどんどん件数が増えている無痛分娩です。すべての医療行為にはメリット・デメリットが存在しますが、無痛分娩も同様です。今回は実際に無痛分娩とそうでない分娩の両方を見ている助産師の視点で無痛分娩について感じる点を書いてみます。

無痛分娩は無痛ではない!

無痛分娩、という言葉を聞くと痛みが全くないようなイメージをされるかもしれませんが実はそうではありません。その理由は2つありますが、まず1つ目は陣痛開始後すぐに麻酔を使用できるわけではないということです。
規則的なおなかの張りと痛みが10分間隔になった時が陣痛のスタートですが、いきなり激しい陣痛がくることは少なく、初めは生理痛のような痛みから徐々に強くなっていきます。また陣痛開始の時点では子宮口もまだ開いていないか、開いていても1~3cm程度のことが大半です。時間の経過とともに痛みが強く頻繁になり、子宮口も開いてきます。初めての出産の場合、平均的には陣痛開始から約12時間で子宮口が全開=10cmになると言われています(経産婦さんは約半分の時間)。痛みが苦手な方の場合は陣痛開始の時点から耐えがたく、麻酔を使用したいと感じる方もいらっしゃると思うのですが、実は麻酔の使用を開始するのは子宮口が3-5cmくらい開いてからのことが多いのです。あまり早くから麻酔を使用するとせっかく始まった陣痛が遠のいてしまうことがあるので、それを防ぐためにある程度の分娩進行をまってから麻酔を開始することが多いのです。つまり陣痛の最初しばらくはある程度麻酔なしで陣痛を経験する時間があるということです。
2つ目はそもそも無痛分娩の目的は痛みをゼロにすることではないということです。人によって痛みの感じ方や麻酔の利き方はそれぞれなのですが、麻酔を使用しない状態での痛みが10だったとしたら、麻酔を使ってそれを3とか5とかにするのが無痛分娩です。まったく痛みのない分娩をイメージして無痛分娩に挑んでしまうと「無痛分娩にしたのに結局痛かった」という思いが残ってしまうかもしれません。

無痛分娩の危険性は?

少し前に事故が相次いだこともあり、無痛分娩に不安なイメージを持っている方も少なくないかもしれません。麻酔という処置をするのでそれに伴うリスクは確かに否定できません。たとえばもともとの体質で麻酔薬にアレルギー反応を起こしてしまう方もいますし、最新の注意を払っていても本来入れるべき場所とは違う場所に麻酔薬が入ってしまうことで呼吸ができなくなったり、致死性の不整脈が出ることもごくまれに発生します。このような事態が生じた際にはすぐに異常を発見し適切に処置をすることが重要なので、無痛分娩を行う際には設備の整った信用できる医療機関を選択することをお勧めします。

どんな医療処置でも(たとえば採血でも腕に麻痺がおこることがあります)、一定の確率で好ましくない副作用が起きてしまうことはあります。起きうるデメリットをしっかり理解して、納得したうえで無痛分娩をするorしない、と自分で決めることが大切です。不安な点はそのままにせず、かかりつけの医師や助産師等に質問してください。

産後が楽ってホント?

無痛分娩を選択する理由の1つに「産後が楽と聞いたから」というものを挙げる妊婦さんが多い気がします。これについては半分本当で半分嘘といったところでしょうか。
確かに痛みは少ないので、体に必要以上に力が入ったり、たくさん叫んで体力を消耗したりということは少ないと思います。そのため分娩直後の疲労感は比較的少ないことが多いでしょう。ただ、無痛分娩のデメリットの一つに分娩所要時間が長くなりやすいというものがあり、時間が長くなったために結果的に疲れてしまったという人もなかにはいます。
そして助産師としてしっかり伝えておきたいのは「無痛分娩で産後の疲労が少ないからすぐ動いても大丈夫」と思っている人がいたらそれはちょっと違うよ!ということです。特に経産婦さんから「上の子の世話もあってのんびりしていられないから疲労が残らないように無痛分娩にしたいです」という声をよく聞きます。麻酔がよく効いてたとえ疲労感が少なかったとしても、分娩に伴う体へのダメージが少なくなったわけではありません。産後はしばらく安静に過ごす必要があります。産後の安静の必要性についてはまた記事をupする予定ですが、無痛分娩でもしっかり休んでくださいね。

まだまだ書きたいことはあるのですが、今回はこのあたりで一旦区切らせていただきます。私が分娩のお手伝いをさせていただいた方の多くは「無痛分娩にしてよかった~」という感想を言ってくださる方が多い印象です。経産婦さんで無痛をしていない場合と両方経験された方は「全然ちがいますね!麻酔神ですね!」とおっしゃっていました。